腰痛は「国民病」とも呼ばれるほど、私たちが身近に体験する体の不調の代表です。日本整形外科学会の調査によると、日本で腰痛をもっている人は約3000万人いると推計されています。
しかし「腰痛」とは、「腰」が「痛い」と言う症状であって、疾患名・診断名ではありません。厚生労働省は、腰部を主とした痛みやハリなどの不快感と言った症状の総称で、一般的に坐骨神経痛を代表とする下肢の痛み・しびれを伴う場合も含むとしています。また、この「腰が痛い」という症状・不調に対して、医師や治療家、医療関係者、研究機関、多くの企業までものが注目をしており、「腰痛」に関する健康雑誌、ハウツー本なども多く出版されています。
■「腰痛」の原因
原因を特定できる腰痛は全体の約15%、残りの約85%は原因を特定しにくい非特異的腰痛と言われています。
原因を特定できる腰痛とは、腰部脊柱管狭窄や椎間板ヘルニアなど腰の神経の障害により起こるもの、内臓の病気による腰痛として、慢性膵炎、腎盂腎炎、尿路結石、慢性の十二指腸潰瘍、子宮内膜症などがあります。また、重篤かつ緊急対応が必要となる脊椎の病気には、化膿性脊椎炎、がんの骨への転移、背骨の圧迫骨折などがあります。
~原因を特定しにくい非特異的腰痛~
・筋性腰痛:肉体労働・デスクワークなどで起きるいわゆる「筋肉痛」
・椎間板性腰痛:物を拾うなど、体を前かがみにすると痛む(背筋が弱い人に多い)
・椎間関節性腰痛:電車のつり革を持つ、赤ちゃんを抱っこするなどの腰を沿った際に痛む(腹筋が弱い人、女性に多い)
・仙腸関節性腰痛:腰よりもお尻近くの仙骨、骨盤部が痛む(女性ホルモンの靱帯への作用も関連して産後の女性に多い)
~絶対に見逃してはいけない兆候~
重篤な疾患の可能性を示唆する絶対に見逃してはいけない兆候、「腰痛のレッドフラッグ(危険信号)」があります。これは2019年に日本整形外科学会と日本腰痛学会が定めた、腰痛診療ガイドラインでレッドフラッグとして挙げられたものです。
【腰痛のレッドフラッグ(2019年腰痛診療ガイドライン)】
・発症年齢が20歳未満
・時間や活動性に関係のない腰痛
・胸部痛
・がん、ステロイド治療、HIVの感染の既往
・栄養不良
・体重減少
・広範囲に及ぶ神経症状
・構築性脊柱変形(円背など)
・発熱
このレッドフラッグの有無を確認して、適正な検査(X線・MRI・血液検査など)を行います。その結果、原因が特定できる腰痛、特定できない腰痛であればタイプ別に治療方針が提案されます。
■腰痛の治療法
薬物療法(内服薬・外用薬・各種ブロック注射・ハイドロリリース)、リハビリテーションとして物理療法(温熱・電気療法など)・運動療法(ストレッチ・筋力トレーニング、セルフ体操など)、またマッサージ療法・鍼灸治療などがあります。このようないわゆる腰痛に対しての治療法については、SNS・ネット情報が充実している現代は、医療情報サイトやYouTubeなどでも医師や治療家の方々が治療法の情報発信をしています。とはいえ、腰痛に悩む人は絶えず「2019年腰痛診療ガイドライン」からは、下記5つのことが挙げられていました。
〇急性腰痛患者の自然経過は、自然経過することが多く、概ね良好である。
〇慢性腰痛患者の自然経過は、急性腰痛に比べて不良である。
〇心理社会的要因は、腰痛を遅延化する。
〇身体的・精神的に健康な生活習慣は、腰痛の予後に良い。
つまり慢性腰痛の方が改善することが難しく、その要因が心理社会的要因であることが明らかになっています。
■慢性腰痛が起こる「心理社会的要因」とは?
近年、痛みの発生には脳が深くかかわっていることが常識となっています。
まずは「痛み・疼痛」についてですが、2020年、国際疼痛学会は痛みの定義を41年ぶりに変更しました。それは、「実際の組織の損傷もしくは組織の損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」というものです。言い換えると、「実際に身体が傷ついた場合だけではなく、傷つく可能性がある状態やそれに近い状態など、傷を伴わなくても起こる感覚と感情の不快な体験」だということです。
例えば、指先にけがをした場合、刺激を受けて発生した信号が神経を介して脳に伝わることで、痛みとして認識されます。ところが、痛みが長く続いていると、原因となる病気やケガがないのに、脳で痛みを感じることがあります。痛みが続いているうちに、痛みを伝えたり、抑えたりする神経の回路に変化が生じ、痛みを感じやすくなってしますのです。
私たちの脳には痛みを和らげるシステムが存在しています。その一つが、「下行性疼痛抑制系」というシステムです。例えば、スポーツ選手は試合中に激しく接触することが少なくありません。試合中にケガをしても、それに気が付かずに痛みを忘れて試合に没頭していることがあります。こうしたとき、この下行性疼痛抑制系が働いています。下行性疼痛抑制系とは、脳の脳幹の中脳にある中心灰白質から下に向かっていく神経回路です。体が痛んだという信号が届けられると、脳内から『幸せホルモン』とよばれるセロトニンやノルアドレナリンが分泌され、痛みを抑制してくれます。また、このシステムが働くときは「やる気ホルモン」と呼ばれるドーパミンも分泌されます。ドーパミンは脳内モルヒネであるオピオイドの分泌を促しこちらも痛みを和らげる方向に働きます。
しかし、このように「下行性疼痛抑制系」が有効に働くのは、スポーツに夢中になっている時のようにポジティブな感情や思考が優位になっている時です。
それに対して、不安や恐怖などのネガティブな感情や思考が働いている時は、このシステムが機能しにくくなり、痛みを抑制する神経伝達物質が分泌されにくくなります。その結果、痛みが強まってしまうのです。
こうした痛みの経験を繰り返すほど、「また痛くなったらどうしよう」と不安や恐怖の感情を抱きやすくなり、実際に不安や恐怖が強まり、慢性痛を悪化させ治りにくくさせている要因の一つとみなされるようになってきました。
■慢性痛に対するこれまでの治療法
慢性痛の治療としては、認知行動療法を基にした心理・社会的アプローチを加えた集学的治療が行われていきました。集学的治療とは、医師や看護師、臨床心理士や理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカーなど、異なる専門スタッフがチームとして情報を共有・連携し、患者一人ひとりにあった方針・計画をそれぞれの専門性を活かして立案し、治療や支援を行うものです。
慢性腰痛に対しても行われていますが、この治療法のデメリットは、病院機構もしくは専門の痛み(疼痛)センターのような医療従事者が整った医療機関に提供が限られることです。
「国民病」とまで言われる腰痛を限られた医療機関でしかできないことでは解決には導けません。更には短期間でも入院を要することは社会活動に影響がでます。
そしてもう一つの問題点は、心理・社会的アプローチを望まない方や、そもそも自分の痛みは「腰のせいにしたい」と言う状態の場合、つまり心理社会的要因が腰痛に影響している、とは思えない、思いたくない、という病状段階の方には、心理・社会的アプローチに取り組むこと自体が苦痛となり適応にはなりません。
■当院の「腰痛治療プログラム」
そこで当院の腰痛治療は、心理社会的要因を「心因性」、「心」の問題とせずに、「脳」という臓器・器官のコンディション不良として、「脳(ブレイン)コンディショニング」として治療プログラムを提案しています。
これは近年の脳機能画像診断、脳科学の進歩によって、神秘的要素の多かった脳が「臓器化」が進み「心因性・心の問題」が脳のコンディションの問題となっているのです。そしてここで大切なことは、「脳」は一部の腰痛に限られるのではなく、全ての腰痛に関与しているということです。腰に明らかな原因となる病態がある場合にも、その「痛み」には脳が関与しているのです。つまり全ての腰痛に「脳(ブレイン)コンディショニング」は不可欠なのです。
~3つの治療プログラム~
①「腰部」に対して適切な治療アプローチ
②「脳」のコンディショニング
③身体(フィジカル)-脳(ブレイン) フィットネス
今回はその中でも、②③のプログラムについてご紹介致します。
「簡単に、無理なく、自分で」できるプログラムなので、自分に合ったものを是非、お試しください。
☑脳(ブレイン) コンディショニング
メディア掲載記事:ニューロフィードバックを用いた当院の「慢性腰痛治療」
【ALPHAS WITCH (アルファスイッチ)】
ニューロフィードバックを用いたブレインコンディションニングです。
簡易な脳波計で脳波を計測しニューロフィードバックという手法で、音楽を聴いているだけで自然に脳波がα波優位に調整されてきます。脳波をリラックスモードにすることで、下行性疼痛抑制系に関与するセロトニン活性を促すこと、そしてトレーニングのフィードバック作用による脳の神経回路への働きかけにより、感情・思考など情動パターンの変化を生み出すことが予想されます。その結果、自然に抵抗することなく自分自身の状態に目を向けることができ、認知行動療法と同様の機序を作り出して痛みの緩和を促すと期待しています。
☑身体(フィジカル)-脳(ブレイン)フィットネス
【リセット®】
「自律運動による心と体の自己回帰法」
ポリヴェーガル理論(脳神経生理学)を基盤とした療法で、侵襲性がなく安全でホリスティックに高い効果を持ち、日本とアメリカを始め欧州の各国に拡がり、医療施設や大学などの教育機関、福祉施設などで広く使われています。
国内外の大学との研究協力などが行われ、RSA(呼吸性心拍変動)、オキシトシン測定等で高い効果のエビデンスも得られています。2019年には、日本救急救命士協会との連携活動(“命を守る人”を守るための活動)が始まり、リセット®が日本救急救命士協会の公式メソッドとして採用されました。
☑中指回し(龍村式指ヨガ)
中指を回すとすべての痛みが消える (整形外科医が教える特効メソッド)
手指を刺激しながら、合わせて呼吸法も行うことで、全身でヨガをやっているのと同じような効果が得ることができます。書籍も好評、多くのメディアに記事掲載されました。
田園調布 長田整形外科
院長 長田 夏哉(おさだ なつや)
【診療科目】
整形外科・リハビリテーション科・一般内科・自然療法・KITAサウンドヒーリング・ウェルネスプログラム
【略歴】
平成5年に日本医科大学卒業後、慶應義塾大学整形外科学教室に入局し整形外科専門医の研鑽を積む。平成17年に川崎市立川崎病院の医長に就任。平成17年9月に田園調布 長田整形外科を開院。
【資格】
日本整形外科学会 専門医
日本整形外科学会認定 スポーツ医
日本スポーツ協会公認 スポーツドクター
【所属学会】
日本整形外科学会
日本整形外科スポーツ学会
日本臨床スポーツ医学会
日本手の外科学会
日本運動器科学会
日本骨粗鬆症学会 等
【所属・関連協会】
一般社団法人 日本スポーツビジョン協会:JSVA 名誉会員
一般社団法人 国政生命意識協会 顧問
一般社団法人 MCA学会 理事
一般社団法人 手のひらセルフケア協会
サウンドヒーリング協会 アドバイザリーブレイン
NPO法人 予防医学療法研究会 顧問
認定NPO法人 日本YOGA連盟 アドバイザー