膝の軟骨がすり減ってしまうと、痛みや腫れが現れることがあり、日常生活に大きな影響を与えることがあります。残念ながら、一度すり減った軟骨を完全に元に戻すことはできません。適切な治療を受けることで症状を和らげ、進行を遅らせる治療がメインとなります。この記事では、膝軟骨がすり減ったときに現れる症状、治療方法、そして予防のためのセルフケアまで、医師監修のもとで詳しく解説していきます。
膝軟骨がすり減ったときの主な症状:変形性膝関節症とは
「膝軟骨がすり減る」という状態は、関節のクッションとなっている軟骨が、年齢を重ねることや筋力の低下によって徐々にすり減っていく状態のことを示します。
本来、健康な膝の軟骨には適度な厚みがありますが、これが長い時間をかけて少しずつ薄くなっていってしまうのです。軟骨そのものには神経が通っていないため、すり減ること自体は痛みを感じません。しかし、削れた軟骨のかけらが関節の内側を刺激することで炎症が起きると痛みなどの症状が現れます。
こうした軟骨が摩耗したことによって炎症が起きてしまう疾患を「変形性膝関節症」と呼びます。
痛みや腫れ
初期段階では、立ち上がるときや歩き始めるときなど、動き出すタイミングで痛みを感じることが多く、しばらく休むと痛みが和らぐことがあります。病気が進行してくると、正座が難しくなったり、階段の上り下りがつらくなったりして、歩くときの痛みが長く続くようになります。
痛みと一緒に現れやすいのが膝の腫れです。関節を包んでいる膜の内側で炎症が起きて、関節液が過剰に作られると、腫れの要因となります。
膝に水が溜まる
医学的には関節水腫と呼ばれ、炎症により関節液が必要以上に作られてしまう状態です。健康な膝にも関節液は存在していますが、炎症が起きると滑膜からとろみのある黄色っぽい液体が大量に作られることがあります。
水が溜まると、膝全体がむくんだようになり、膝のお皿の周りを触るとやわらかくぷよぷよとします。膝の曲げ伸ばしで違和感があったり、膝が重く感じたりすることもあり、歩きにくさや痛みにもつながります。
膝軟骨がすり減ったら何科を受診する?整形外科に相談すべきタイミング
膝に違和感や痛みを覚えてから数週間続くようであれば、整形外科を受診することをおすすめします。とくに、立ち上がるときや階段を下りるとき、歩くたびに痛みを感じるようになったら、早めに受診することが大切です。
たとえばこんなタイミング:
- 動き始めの痛みが毎日のように続くとき
- 膝の腫れがなかなか引かないとき
- 水が溜まっているような感覚があるとき
- 正座や階段の上り下りが難しくなってきた
など
整形外科では、問診や触診で症状を詳しく確認し、レントゲン検査やMRI検査などで軟骨の状態や骨の変化を詳しく調べます。早い段階で適切な診断を受け、治療を始めることで、症状の進行を遅らせることができます。
膝軟骨がすり減ったらどうする?予防のためのセルフケア
「膝軟骨がすり減っている」と診断された場合、これ以上すり減っていくのを早めないよう炎症を抑えて、症状の進行を予防してくことになります。
軟骨のすり減りを予防するには、日々のセルフケアがとても重要です。一度すり減ってしまった軟骨を元に戻すことはできませんが、適切なケアをすることで膝への負担を減らし、今ある軟骨を守ることができます。
筋トレで膝を支える
膝を支える筋肉、とくに太ももの前面にある筋肉を鍛えることは、膝への負担を減らす手軽な方法の一つです。
椅子に座った状態で片方の足をゆっくり前に伸ばし、そのまま数秒間保持してから戻す運動を習慣化するだけでも、弱った筋力を鍛えられます。膝に直接体重がかからないため比較的安全に行える運動ですが、痛みがひどいときは診察を受け、医師の指示に従ってください。
無理のないストレッチ
ストレッチは、膝周りの筋肉を柔軟に保つことで、関節の動きをスムーズにし、痛みを和らげたり予防したりする効果があります。
横向きに寝て上側の足の足首を手で持ち、かかとをお尻に近づけるように曲げると、太ももの前側を伸ばすことができます。太もも後面のストレッチは、仰向けで片足を上げ、太ももの裏側を両手で支えながら膝を伸ばします。
いずれも痛みを感じない範囲で行い、朝起きたときや入浴後など体が温まっているときに行うとより効果的です。
ウォーキングなど有酸素運動
適度な運動は膝関節の健康を保つために欠かせません。ウォーキングは膝への負担が比較的少なく、全身の血流を良くし、筋力維持にも効果的です。また後述のとおり、肥満体型は膝に負担を与えるため、有酸素運動で健康的な体重を維持することも大切です。
平らな道から始めて、短い時間から徐々に時間を延ばしていきましょう。膝への負担が心配な場合は、プールでのウォーキングもおすすめです。すでに痛みがある方は、無理せず医師の指導に従いながら問い入れてください。
体重管理と食生活
体重が増えると歩くときに膝にかかる負担も大きくなります。バランスの良い食事を心がけてください。野菜を多く摂り、タンパク質は魚や大豆製品を中心に意識すると、脂質を抑えた食事たできます。
体重が膝に負荷を与えており、減量が必要な場合でも、急激な減量は筋肉量の低下を招いてしまいます。ゆっくりとしたペースで減量し、運動と組み合わせて筋肉を維持しながら、健康的に体重管理を行いましょう。
膝に優しい日常動作の工夫
日常生活で膝への負担を減らす工夫も大切です。長時間の正座は避け、階段を使うときは手すりを使い、上るときは調子の良い脚から、下りるときは調子の悪い脚から一段ずつ移動しましょう。靴はクッション性が高く足に合うものを選び、ヒールの高い靴や底の薄い靴は避けて過ごしてみてください。
栄養補助食品・サプリの活用
サプリメントなどは栄養素を気軽に補完できるアイテムですが、食事のバランスを維持するためにも、まずはバランスよく食べ、それでも摂取が難しい栄養素を得たい場合に活用するとよいでしょう。サプリメントだけに頼り切らず、運動療法や体重管理などと併用することが大切です。
膝軟骨がすり減ったらどんな治療がある?痛みを抑える保存療法
膝軟骨がすり減ったときの治療は、まず手術をしない方法で症状を和らげる「保存療法」から始めることが一般的です。薬物療法、注射療法などを組み合わせて行い、それでも開園が難しい場合に手術などの選択が取られます。
痛み止め・消炎鎮痛薬
薬物療法では、炎症を抑える作用のある飲み薬が処方されます。痛みが軽い場合はまず塗り薬や貼り薬から始めることも多いです。こうした薬物療法は、炎症による痛みや腫れを抑え、日常生活を送りやすいようにするために処方されます。軟骨そのものを再生させる効果はないため、定期的に診察を受けながら治療を続ける必要があります。
ヒアルロン酸注射
ヒアルロン酸注射は、膝関節の中に直接ヒアルロン酸を注入する治療法です。関節の動きを滑らかにし、衝撃を和らげる役割があります。
定期的に注射を行い、数回の治療を1クールとして実施します。効果が現れるまでには少し時間がかかり、痛みを和らげることを目的としているため、炎症が起きているときは他の治療法と組み合わせて行うことが効果的です。
サポーター・装具の活用
膝サポーターや装具は、膝関節を安定させ、痛みを軽くする効果があります。適度な圧迫で関節を固定させることで、痛みを軽減させ、運動やリハビリをしやすくするために活用されます。
ただし、固定しすぎると筋力の低下につながることもあるため、必ず医師のアドバイスを受けて専門アイテムを選び、運動療法と併用して必要なときだけ使用することが大切です。
膝軟骨がすり減ったら検討される手術治療
保存療法を数ヶ月続けても効果がなく、膝の痛みや変形が悪化している場合は、手術療法が検討されることがあります。年齢、活動レベル、変形の程度などによって選択されます。
関節鏡視下手術
膝に小さな穴を開けて細い内視鏡を挿入し、軟骨のかけらや炎症組織を取り除く手術です。傷が小さく入院期間も短い方法で、身体の負担を抑えたい場合に選択されます。軽い症状や半月板損傷など明確な原因がある場合には効果的です。手術後は早い段階で歩行が可能となり、比較的短期間で日常生活に復帰できます。
高位骨切り術
骨を切って角度を調整することで、脚の変形により膝の内側に集中している力を分散させる手術です。自分の関節を残すことができるため、比較的若い患者さんに適しています。すねの骨に切り込みを入れて角度を調整し、金属のプレートで固定します。術後はしばらく体重をかけることを制限され、骨が完全にくっつくまでには数ヶ月かかります。将来的に人工関節置換術が必要になった場合でも移行が可能なため、段階的に選択する手術です。
人工膝関節置換術
すり減った軟骨と傷んだ骨の表面を取り除き、金属やプラスチックでできた人工関節に置き換える手術です。手術時間は比較的短く、入院期間は数週間程度です。最近では膝の一部だけを置換する部分置換術も行われています。数ヶ月程度で日常生活に復帰できますが、激しいスポーツや重労働は避ける必要があります。
すり減った膝軟骨の再生が期待される「再生医療」
再生医療は、患者さん自身の細胞や血液などを使って、損傷した組織の修復を促し、痛みを緩和させたり、症状の進行を遅らせたりする治療です。個人差はありますが、症状がそれほど進行していなければ、軟骨の再生につながる可能性もあります。
PRP(多血小板血漿)療法は、患者さんの血液から血小板を濃縮した成分を取り出し、膝関節内に注射する治療法です。血小板に含まれる成長因子が軟骨細胞の活性化や炎症の抑制に働くことが期待されています。一方、間葉系間質細胞を使った治療は、体の組織などから採取した細胞を培養し、膝関節内に注入する方法です。現時点では主に炎症を抑えて症状を改善する効果が中心です。
再生医療は、その方法によって目的や症状との相性が異なるため、医師と相談しながら適切な治療を選ぶ必要があります。
まとめ:膝の軟骨がすり減ったら予防しながらの治療が大切
膝軟骨のすり減りは、適切な治療を受けながら、これ以上進行しないように予防する対策が必要です。まずは日常的なセルフケアから始め、筋力トレーニング、ストレッチ、適度な運動、体重管理などを実践しましょう。
膝軟骨がすり減ったと診断された方の中には、再生医療を検討している方もいるでしょう。再生医療は個人差や症状によって、効果も変わります。信頼できる病院を見つけて医師と相談しながら検討してみてください。
田園調布長田整形外科は、膝軟骨がすり減ったと診断されて悩んでいる方のサポートも行っています。治療をご検討の方は、ぜひ一度ご相談ください。