膝の痛みに悩む多くの方が「再生医療」という言葉に大きな期待を寄せています。しかし、治療を受けたあとに「効果がない」「思っていたのと違う」という声も聞かれることがあります。実は、多くの方が再生医療に対して誤解を持っていることが、このような評価につながっているのです。今回は、大田区・世田谷区の整形外科医の視点から、膝の再生医療が「効果なし」と言われる理由と、効果が現れにくいケースについて詳しく解説します。
膝の再生医療は主に痛みの緩和を目指す治療
「再生医療」という名前から、多くの方は「膝が完全に元通りになる」「若返る」「軟骨が再生して新品同様になる」といったイメージを持ちがちです。
しかし、これは大きな誤解です。現在の膝の再生医療は、あくまで痛みの緩和や症状の進行を遅らせることを主な目的とした治療法です。たしかに損傷した組織の修復を促し、軟骨や半月板などの再生を期待できる治療ですが、効果には個人差があります。たとえば、軟骨がほとんど残っていないほど症状が進行していれば、再生医療も効果が出ません。
また再生医療は比較的新しい治療分野であり、従来の薬物療法や手術療法と比べると、まだ治療実績がたくさんあるとはいい難い面もあります。そのため、患者さん一人ひとりに最適な治療方法については、現在も研究が続けられている段階なのです。
膝の再生医療が効果なしと言われる背景・理由
膝の再生医療が「効果なし」と言われる背景には、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。
そもそも再生医療の効果は、手術療法のように画一的ではありません。損傷した関節を人工関節に変える治療であれば、ほとんどの患者さんで膝関節の機能改善が期待できますが、再生医療では同じ治療を受けても効果の現れ方に大きな差が出ることがあります。
また、効果が現れるまでに時間がかかることも「効果なし」という印象を与える要因となっています。即効性を求める方にとっては、徐々に改善していく治療法の特性を理解していないと、期待外れと感じてしまうことがあるのです。
医師による十分な説明やカウンセリングが行われず、患者さんの期待と実際の効果にギャップが生じることもこうした噂の要因です。ここからはそれぞれの理由について詳しく解説します。
膝の再生医療の効果には個人差がある
たとえばPRP療法を受けた患者さんのうち、軟骨損傷や変形性膝関節症などの症状の改善に効果があったとされる割合は約60~70%程度といわれています。この個人差は、年齢、体質、生活習慣、症状の進行度など、複数の要因が複雑に絡み合って生じています。
どのような患者さんに効果が出やすいかを事前に完全に予測することは困難で、そのため治療前の詳細な検査と評価が重要です。また、患者さん自身の血液や細胞を使用するため、その品質や活性度も治療効果に影響することがあります。
年齢や生活習慣の影響
高齢になるほど血小板や白血球の機能が低下し、身体全体の再生能力が落ちていきます。再生医療は身体が組織を回復させる力を使って修復を促すため、再生能力が落ちていると思ったような効果を得られない可能性があるのです。
また、日常生活による膝への負担や、身体の再生能力への影響も重要な要素です。普段から膝に負担がかかりやすい生活を送っている方は、治療効果を実感するまでに時間がかかる傾向があります。とくに肥満により膝への物理的な負担が大きい方は、治療効果が相殺されてしまうこともあります。
運動不足、偏った食生活、喫煙習慣などは、体の修復能力を低下させる要因です。体重管理や適度な運動、バランスの良い食事など、生活習慣の改善も治療効果を高めるために重要です。
体質による個人差
再生医療は血液から採取した細胞や血漿を使用します。しかし血液中の血小板の数や、血小板から放出される成長因子の量や質は、人によって異なります。これらの違いが治療効果の差として現れるのです。
また体質的に炎症を起こしやすい方や、自己免疫の問題を抱えている方は、治療効果が十分に発揮されない可能性もあります。
進行した変形性膝関節症では再生医療の効果が出にくい
変形性膝関節症の進行度は、治療効果に大きく影響します。症状の進行度はKL分類(Kellgren-Lawrence分類)という基準で評価され、軟骨の摩耗が進み、関節の隙間がほとんどなくなってしまった重症例(KL分類4)では、再生医療の効果が限定的になることが分かっています。
軟骨がほとんど残っていない状態では、PRPや幹細胞が働きかける組織自体が存在しません。こうした状態で新しい軟骨を作り出すことはできないため、関節内の炎症を抑えて痛みを和らげる効果にとどまります。そのため、症状が軽いうちに治療を開始することが望ましいとされます。
治療方法と症状には相性がある
治療 | 主な特徴 | 対象となる症状 |
---|---|---|
間葉系幹細胞治療 | 自身の脂肪から採取した幹細胞を1億個以上に培養し、関節に注射。炎症抑制と軟骨保護に期待。 | 中等度~重度の変形性膝関節症、手術回避を目指す患者 |
PRP療法 | 血小板を多く含む血漿を抽出して注射。抗炎症作用や組織修復を促す。 | 初期~中期の変形性膝関節症、軽度の膝のけが |
PFC-FD™療法 | PRPを濃縮・凍結乾燥処理し、成長因子を高濃度化。白血球を除去し炎症リスクを軽減。 | ヒアルロン酸が効かない初期~中期の患者 |
自家培養軟骨移植術 | 自身の軟骨を培養・増殖し、欠損部に移植。手術が必要だが、根本的な軟骨修復を目指せる。 | 外傷や離断性骨軟骨炎による局所的軟骨欠損(若年層中心) |
このように再生医療による膝の治療はさまざまな種類があり、それぞれに向き不向きがあります。患者さんの症状や病期に応じて最適な治療法を選択することが重要なため、自身で「この治療を受けたい」と決めて病院を探すのではなく、診察を受けて医師と相談しながら決めることが大切です。
一度の通院では終わらないこともある
再生医療は、1回の治療では終わらないことがあります。たとえばPRP療法では3~4週間の間隔で3回の注射を1クールとして治療することもあり、症状の種類や程度によって必要な回数は変わります。
この前提を知らないと「1回注射してみたけれど効果がない」と判断してしまう方もいます。また予定していた回数の治療後も、痛みの程度や生活の改善度、画像検査での変化などを評価し、必要に応じて追加の治療を検討します。効果が認められた場合は2クール目の治療を行うこともあるため、治療の計画は医師の説明をよく聞いて理解しておくことが大切です。
治療前後のリハビリテーションも重要であり、筋力トレーニングやストレッチなどを含めると、全体の治療期間は数ヶ月に及ぶこともあります。
膝の再生医療はすぐに効果が現れるものではない
再生医療の効果が現れるまでの時間は、患者さんによって大きく異なります。
早い方では2週間程度で改善を実感することもありますが、一般的には効果を実感し始めるまでに2~3ヶ月かかることが多いです。
注入されたPRPや幹細胞が、組織の修復を促進するまでに時間がかかるためです。体内では、成長因子が徐々に組織に働きかけ、炎症が治まり、損傷した組織が修復されていきます。身体の再生能力を活用しているため、薬物療法のような即効性はありません。
また、効果の持続期間にも個人差があり、半年から2年程度と幅があります。効果が期待できるタイミングや期間についても、あらかじめきちんと把握しておくことが大切です。
膝の再生医療の効果は個人差も大きい│田園調布長田整形外科へ相談
膝の再生医療は、適切な症状に対し、適切なタイミングで施せば有効な治療となり得る選択肢です。しかし、すべての患者さんに同じような効果を約束するものではありません。
治療を検討する際は、まずMRI検査などで膝の状態を詳しく調べ、再生医療が適応となるかどうかを判断することが不可欠です。治療にかかる回数、期間、費用、そして現実的に期待できる効果も、医師によく確認し、認識をすり合わせたうえで検討しましょう。
再生医療は「魔法の治療」ではありませんが、患者さんの体が持つ自然治癒力を活用し生物学的に組織の修復を促せる治療です。大田区・世田谷区にお住まいで膝の痛みにお悩みの方は、田園調布長田整形外科までまずはご相談ください。