みなさんは「プチ更年期障害」や「若年性更年期障害」という言葉を耳にしたことがありますか?
これらの言葉は、20〜30代の若い女性たちに起こる不調を指すもので、その症状が更年期障害によく似ていることから名付けられたと考えられています。
実は近年、若年性更年期障害と呼ばれる不調を訴える若い女性たちが増えているのです。
そこで今回は、若年性更年期障害とはどんなものなのか、不調の原因や治療方法にも触れながらご紹介していきます。
若年性更年期障害の代表的な症状は?
20〜30代で更年期障害になる方はほとんどいませんが、「若年性更年期障害」「プチ更年期」という言葉が生まれるくらい、更年期障害に似た点のある心身の不調に悩まされている方がたくさんいるのも事実です。では、具体的にはどのような症状が見られるのでしょうか?
ほてり、めまい、だるさといった身体的不調
急に体が熱くなって汗をかいてしまう、めまいがする、慢性的に体がだるくて疲れやすい。
こうした身体的な症状は、若年性更年期障害と呼ばれる不調の代表的な例です。このほか、頭痛や肩こり、動悸、息切れ、冷えなどが見られることもあります。
イライラや不眠などの精神的不調
若年性更年期障害と呼ばれる不調には、些細なことでイライラして周囲にあたってしまう、夜ベッドに入ってもなかなか寝つけないなどの精神的な症状もよく現れます。
憂うつになったり、落ち込みやすくなったりする方も多いようです。
月経周期や月経量など生理の乱れ
閉経は、あるときを境に月経がピタッと止まるような性質のものではありません。月経周期が乱れたり、経血の量が減ったりしながら、時間をかけて完全に停止します。
若年性更年期障害とされる不調でも、閉経前と似たような月経周期や量の乱れが見られます。
若年性更年期障害の原因は?
このような更年期障害と似たような不調は、なぜ起こるのでしょうか?
これらの不調はホルモンバランスの乱れ(おもに「エストロゲン(卵胞ホルモン)」の減少)が原因で起こっているケースが非常に多く見られます。
20〜30代の女性は、結婚や妊娠・出産といった大きなライフイベントを迎えることが多いものです。
さらに近年は、男性と同じように働く方々も大幅に増えました。そうやって生活スタイルが大きく変わる年代を迎え、責任も増し、気づかないうちに疲れやストレスが溜まっている女性たちは多いはず。
それがホルモンバランスの乱れを招き、若年性更年期障害と呼ばれるような不調を引き起こすのです。
無理なダイエットなどもホルモンバランスの乱れの原因に
日本ではダイエットブームが長らく続いており、特に若い世代を中心に「痩せている=いいこと」という風潮が根づいていて、適正体重を下回る痩せ方の女性も多く見られます。なかには、食事量や内容を極端に制限するようなダイエットに取り組んでいる方も少なくありません。
しかし、無理なダイエットはホルモンバランスの乱れを引き起こし、心身の不調の原因に。さらには無月経(3ヶ月以上月経がないこと)になることもあります。
ほかにも、不規則な生活リズムや睡眠不足、運動不足、喫煙や過度の飲酒といった生活習慣の乱れも、ホルモンバランスの乱れの原因になります。
そもそも更年期障害とはどんな人がなる病気?
「更年期」とは、閉経の前後5年間を合わせた10年間のことを指します。この期間には女性ホルモンのバランスが大きくゆらぐため、心身にさまざまな不調が起こるもの。
このうち何らかの病気を伴わない不調を「更年期症状」、この症状がつらく、生活に大きな悪影響を与える状態を「更年期障害」といいます。
つまり、一般的に更年期障害が始まるのは40代に入ってから。若くして閉経を迎えるケースを除き、20〜30代の方が更年期障害になることはありません。「若年性更年期障害」や「プチ更年期」のような巷で聞かれる呼び名は、正式な病名ではないのです。
自分でできる「更年期障害」のセルフチェック
更年期障害の有無をチェックする際の指標に、「簡略更年期指数(SMI)」というものがあります。あくまで「更年期障害」の診断・治療に用いられ、若年性更年期障害を想定したものではありませんが、受診を悩んでいる方はひとつの目安にするといいかもしれません。
簡略更年期指数(SMI)
症状 | 強 | 中 | 弱 | 無 | 合計 |
①顔がほてる | 10 | 6 | 3 | 0 | |
②汗をかきやすい | 10 | 6 | 3 | 0 | |
③腰や手足が冷えやすい | 14 | 9 | 5 | 0 | |
④息切れ、動悸がする | 12 | 8 | 4 | 0 | |
⑤寝つきが悪い、または眠りが浅い | 14 | 9 | 5 | 0 | |
⑥怒りやすく、すぐイライラする | 12 | 8 | 4 | 0 | |
⑦くよくよしたり、憂うつになったりすることがある | 7 | 5 | 3 | 0 | |
⑧頭痛、めまい、吐き気がよくある | 7 | 5 | 3 | 0 | |
⑨疲れやすい | 7 | 4 | 2 | 0 | |
⑩肩こり、頭痛、手足の痛みがある | 7 | 5 | 3 | 0 | |
合計点 |
更年期障害を疑っている方で、上記の①〜⑩までの合計点数が51点を超える場合、医療機関を受診すべきとされています。また、26〜50点の方は、食事や運動などの生活習慣を改善することが推奨されています。
若年性更年期障害かなと思ったら、今の生活を見直してみよう
若年性更年期障害と呼ばれる不調の原因については先にご説明しましたが、置かれている環境や生活習慣が大きく影響しています。
不調を感じたら、まずは自身の生活を見直し、心身に負担を与えている原因を探してみましょう。
そして、適切な食事・運動・睡眠を心がけ、できるだけストレスを避けるようにすると、ホルモンバランスが整って不調が緩和・改善する可能性もあります。
婦人科で受けられる検査と治療
若年性更年期障害とされる不調で婦人科を受診した場合、まずはさまざまな検査を行い、病気が隠れていないかをチェックします。
そのなかの血液検査で、女性ホルモンの状態を調べることも可能です。ここまでにご紹介してきた「ホルモンバランスの乱れによって引き起こされる不調」の可能性も確認できます。
治療の内容は検査の結果や本人の希望に応じて決まりますが、おもな選択肢としては以下のようなものがあります。
漢方薬による治療
症状に合った漢方薬を使った治療です。
処方の内容は人によって異なりますが、月経異常や冷え、頭痛などに効果があるとされる「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」、イライラや不眠、のぼせなどの緩和が期待できる「加味逍遙散(かみしょうようさん)」、生理痛や生理不順の改善を目指せる「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」などがよく採用されます。
ご自身の症状を細かに医師に伝え、適切な薬を選んでもらってください。
低用量ピルによる治療
排卵を一時的に止める低容量ピルは、ホルモンバランスの変動を抑えるため、さまざまな不調の改善が期待できます。
また、若年性更年期障害と呼ばれる不調は実はPMS(月経前症候群)であることも多く、その場合は低容量ピルの服用で改善する可能性が高いでしょう。
ただし、妊娠を希望している方は服用できません。
ホルモン補充療法による治療
血液検査の結果に応じて、飲み薬や貼り薬などを使い、ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の補充を行います。
これにより、ホルモンバランスの乱れを緩やかにし、諸症状の改善を目指します。
ただし、ホルモン補充療法は既往歴によっては選択できません。体の状態を医師に報告のうえ、よく相談して選択してください。
プラセンタ注射による治療
プラセンタを注射することで、心身の諸症状を改善できる場合もあります。
ただし、プラセンタはヒト由来の臓器から製造された薬剤であるため、治療を受けたあとは血液の提供(献血)ができなくなります。
20〜30代に更年期障害のような症状が現れる代表的な病気
「若いうちに更年期障害のような症状が出たら、若年性更年期障害」と一概に決めつけるのは危険です。
実は、更年期障害と似たような症状が見られる病気はさまざまにあります。以下はその代表的な例です。
自律神経失調症
自律神経には、身体や脳が活動するときに働く「交感神経」と、休息するときに働く「副交感神経」とがあります。
それぞれが適切な時間帯に優位になることで健やかな生活ができますが、このリズムが崩れてしまうと、不眠や疲労の蓄積、頭痛、めまい、ほてり、月経不順などの更年期障害に似た症状が現れることがあります。この状態を、自律神経失調症といいます。
なお、自律神経失調症のおもな原因は特定できませんが、ストレスが影響していることがあります。過労や睡眠不足、精神的負荷などが原因で心身がストレスにさらされると発症リスクが高まります。
うつ病
うつ病は、脳の神経伝達物質の分泌にトラブルが生じることで発症する病気です。
更年期障害と似た症状としては、不眠や気力の低下、悲しみを感じる、落ち込みやすくなるといった精神症状や頭痛などが挙げられます。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、甲状腺の働きが過剰に活発化し、血中に甲状腺ホルモンが増えることによって引き起こされる病気の総称です。
具体的には、バセドウ病やグレーブス病などが挙げられます。代表的な症状には、多汗、不眠、疲労感、月経不順などがあり、これも更年期障害の症状とよく似ています。
メニエール病
メニエール病は、ストレスや疲労などが原因で内リンパ水腫が起きることにより発症する病気です。
更年期障害に似た不調としてはめまいと吐き気が挙げられ、そのほかにも難聴や耳鳴りもおもな症状とされています。
貧血
病気ではなくひとつの症状ですが、貧血でも更年期障害と似た不調が現れることがあります。具体的には、めまいや立ちくらみ、疲労感、倦怠感、頭痛などです。
上記のような病気が不調の原因だった場合、「ホルモンバランスの乱れだろう」と放っておくと、どんどん進行してしまうことも。不調を感じたら医療機関を受診するようにしてください。
一人で抱え込まずに気になる場合は専門医に相談を
ご紹介してきたように、若年性更年期障害やプチ更年期障害と呼ばれる不調は、生活習慣や環境の見直し、適切な治療を受けることで改善できる可能性があります。
また、治療が必要な病気が原因となっている可能性も否めないため、不調を感じたら一度医師に相談することが大切。
「若年性更年期障害で悩んでいる人は多いみたいだから大丈夫だろう」「これくらいだったら我慢できる」などと考えず、速やかに婦人科を受診しましょう。
そうして相談できるクリニックをつくっておけば、体調の回復を目指せることはもちろん、いつか本当の更年期障害になったときも、スムーズに治療を受けられるはず。健やかな人生を送るために、ぜひ専門家を頼る習慣をつけてください。