程度の差こそあれ、月経がある女性の多くが悩まされるPMS(月経前症候群)。経験者がとても多い心身の不調であるにもかかわらず、その原因や対処法についてあまり知らない方は少なくありません。
そこで今回は、PMSとはどんなものか、症状が強く出る方の傾向や具体的なケア方法にも触れながら詳しくご紹介します。
PMSは生理の3~14日前から始まる精神・身体的な不調
「PMS(Premenstrual Syndrome)=月経前症候群」とは、その名前のとおり「月経の3〜14日前に始まる心身の不調」のことをいいます。
具体的な症状には個人差が見られ、その種類は数多くありますが(200種類を超えるといわれています)、おもな身体の不調としては以下が挙げられます。
PMSでおこる主な不調
- 下腹部の痛み、膨満感
- 乳房の痛み、張り
- 頭痛
- めまい
- 肩こり
- むくみ
- 便秘
- 疲労感、だるさ
- 不眠(もしくは過眠)
- 肌荒れ
また、イライラする、不安になる、落ち込みやすくなる、涙が止まらなくなる、集中できなくなるなどの精神的な不調もPMSの代表的な症状です。
こうした心の不調が特にひどく、日常生活に支障をきたしている状態を「PMDD(premenstrual dysphoric disorder)=月経前不快気分障害」といい、その症状の深刻さから「うつ病」の一種として分類している国もあります。
PMSはどうして起こるの?
女性にとって非常に身近な不調のひとつであるPMSですが、実はその原因は未だ明確になっていません。
現段階では、排卵後から月経が始まるまでの間に分泌量が増える「黄体ホルモン(プロゲステロン)」の影響や、「黄体ホルモン」と「卵胞ホルモン(エストロゲン)」のバランスの変動などが原因になるのではないかと考えられています。
PMSは 20〜30代に不調がひどくなる場合が多い
PMSの症状の程度は人によって異なりますが、傾向として、ライフステージが大きく変化する20〜30代にかけて症状が強く現れやすいとされています。
原因として考えられるのが、この年代の女性たちの多くが精神的ストレスや疲労を感じやすい環境にあることです。
特に妊娠・出産を経験した女性は、女性ホルモンの分泌量の変化が大きく、また産後しばらくはホルモンバランスが安定しない期間が続きます。
そんな状態で育児と家事や仕事の両立を求められることで、精神的に重い負荷がかかったり、睡眠不足になったりして、心身が疲弊。すると、PMSの症状が強く出やすくなるのです。
また出産をしていない女性でも、年代的に仕事の責任が大きくなったり、親の介護をはじめとした家族の問題が発生したりしやすいもの。この場合も同様に、重いPMSに悩まされる可能性が高くなります。
症状は年齢を重ねるにつれて変化することも
PMSの症状は、年齢を重ねるにともなって変化することが多いといわれています。
20代は、憂うつになったりネガティブになったりといった精神的な症状が現れる方が多く見られます。
しかし30代以降になると、頭痛や疲労感などの身体的な症状を感じる方が増加する傾向に。また精神的な症状も、イライラを感じる方の割合が増えるようです。
PMSになりやすい環境、タイプ・性格はある?
PMSの症状の強さに影響を与える要素は、年齢だけではありません。性格やライフスタイルなども、PMSのなりやすさに深く関係しています。
PMSになる可能性が高い人
生活リズムが不規則
起床・就寝の時間が日によってバラバラ、睡眠不足が続いている、食事の回数が不規則などの生活リズムが不規則な方は、PMSの症状が強く出やすいといわれています。寝起きや食事の時間をできるだけ一定にし、十分な睡眠時間をとり、適度な運動をするといったように、生活習慣を見直すことをおすすめします。
栄養バランスの悪い食事をとっている
野菜の摂取量が少なく、ファストフードや揚げ物、お菓子、アルコール類を多くとるような食生活も、ホルモンバランスの乱れを招きやすいとされています。できるだけ栄養バランスのとれた食事、脂質が高過ぎない食事を、1日3食とるように心がけましょう。意識的に摂取したい食材としては、穀物、豆類、芋類が挙げられます。栄養素としては、ビタミンB6やミネラルを多く摂るといいといわれています。
ストレスや緊張が多い日々を送っている
仕事や家庭での責任が大きい方は、日常的にストレスや緊張を感じているもの。本人も気づかないうちに心が疲弊しているケースは多く見られます。
とはいっても、すぐに環境を変えて精神的負担を払拭するのはなかなか難しいはず。そこでおすすめしたいのが、うまく気持ちをリフレッシュする方法を見つけることです。
趣味を楽しむ時間をつくったり、悩みや愚痴を親しい人に話したりと、自分に合った方法を探してみてください。簡単に実践できるテクニックとしては、心身をリラックスさせる作用があるとされるアロマを生活に取り入れたり、温かいハーブティーを飲む習慣をつけたりといったことが挙げられます。
真面目で完璧主義な性格をしている
真面目で完璧主義な性格の方は、心身に多少の不調があっても我慢して仕事をしてしまったり、いかなるときも周囲からの期待に応えることを最優先にしてしまったりして、気づいたら想像以上に負担がかかっていることも。
自分に厳しく、必要以上に高いハードルを課してしまうケースも多く見られます。このような方も心身が疲弊しやすく、PMSの症状が強く現れる傾向にあります。
責任感の強い性格は長所でもありますが、自身の性格をよく理解し、疲労が溜まっていないか、無理をしすぎていないかをこまめに振り返る工夫が必要です。
PMSの予防にはセルフケアが大切
PMSになりやすい方の特徴を並べてみると、「自身の生活習慣や心身の疲労にあまり意識を向けられていない」という共通点が見えてきます。
家族や会社で担う役割の性質上、自分よりも周囲の人々を優先している方は少なくないと思いますが、責任の大きい立場にいるからこそ体調不良は大敵。できるだけセルフケアに手間や時間をかけて自分を労り、PMSに悩まされにくい体づくりを目指してください。
PMSの症状が強い場合の対処法
「月経に伴う不調は病気ではないから」と我慢してしまう方は多く見られますが、程度によっては婦人科での治療を受けたほうがいい場合もあります。まずはセルフチェックを行い、自身の現在の状態を確認してみてください。
セルフチェックで自分の状態を知る
月経が始まる3〜14日前の期間を振り返ってみましょう。以下の項目に当てはまるものはありませんか?
PMSセルフチェック
- 急に悲しくなる、落ち込む、絶望感を覚えるなど、ネガティブな感情を抱くタイミングが多い
- イライラする、不安や興奮でそわそわする、緊張感が続くなど、心が落ち着かない
- 気分の浮き沈みが激しくなる
- 夜になかなか寝つけなかったり、眠りが浅かったりする。もしくは日中に眠くなる
- 集中力が続かない
- なんとなく疲れており、無気力感がある
- 食欲が増し、食べ過ぎてしまうことが多い
- 下腹部や乳房、腰、関節などに痛みがある
- 頭痛やめまいがある
- 便秘、もしくは下痢になる
- むくみやすくなり、体重が増加する
- 吐き気がある
- 冷えを感じやすくなる、もしくはのぼせやすくなる
- 肌荒れに悩まされる
- おりものが多くなる
上記の項目に複数当てはまる方、もしくは該当項目が理由で仕事や家事などの日常生活に支障が出たり、人間関係がうまくいかなくなったりしたことがある方は、一度婦人科に相談するのがおすすめです。
気になる症状がでたら婦人科に相談を
婦人科で適切な治療を受けたり、医師の指示に従って生活習慣を改善したりすることで、症状が改善、緩和する可能性があります。
婦人科では、おもに以下のような治療が行われます。
ホルモン剤を使用して排卵を一時的に止める
辛いPMSに悩んでおり、妊娠を希望しない方の場合、「低容量ピル」や「低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬」といったホルモン剤の服用を選択できます。排卵を一時的に止める作用がある薬で、女性ホルモンの分泌の変動を抑えられるため、PMS症状の大幅な軽減が期待できます。
ホルモン剤の使用は海外諸国では広く普及している選択肢で、日本でも徐々に認知度が拡大しています。
ただし、肥満など服用によるリスクが大きい方も中にはいらっしゃいます。医師とよく相談のうえ、正しく服用してください。
漢方薬を使用して症状を緩和する
症状に合わせた漢方薬を使用する方法もあります。
具体的には、
おすすめの漢方薬
- 頭痛やめまい、むくみがある
…当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、五苓散(ごれいさん)」 - 下腹部の痛みやのぼせて足が冷える、肩こりがある
…桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) - のぼせやイライラがあり、便秘傾向
…桃核承気湯(とうかくじょうきとう) - 頭痛
…川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん) - イライラなどの精神的な症状が強い
…加味逍遙散(かみしょうようさん)
上記では代表的な漢方薬を挙げていますが、症状によってこれ以外の薬が選択されることもあるので、医師に体の状態を詳しく伝えて処方してもらってください。
そのほかの治療法
薬を処方する以外では、生活指導や運動指導が行われることもあります。
また、クリニックによってはカウンセリングを行ってくれることも。症状の内容や、それに伴う困りごとや不安をじっくりと聞いてくれるだけでなく、個人の希望やライフスタイルに合わせた治療方法を一緒に考えてくれます。悩みを吐き出せないことで苦しさを感じている方、治療に対して不安がある方は、まずはカウンセリングを受けてみてもいいかもしれません。
なお、自分では「この症状はきっとPMSだ」と考えていても、検査をすると実際には別の原因が隠れていたというケースもあります。早めの治療が必要な病気が原因である場合もありますから、不調に悩まされている方は、ぜひ一度婦人科にかかるようにしてください。
精神的な症状が強いPMDDは心療内科で治療することも
イライラや落ち込みなどの精神的な症状が強く現れる「PMDD(月経前不快気分障害)」の場合は、心療内科での治療を勧められることがあります。
治療方法は一人ひとりの状態によりますが、抗うつ薬に分類されるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)による治療が代表的です。
まずは婦人科を受診し、医師とよく相談したうえで、心療内科での治療も検討してみてください。
PMSの症状は我慢せずに改善を目指そう
生活習慣や環境の見直しに、ホルモン剤、漢方薬の使用。PMS症状の改善・緩和を目指す方法はさまざまにあります。
大切なのは、痛みや辛さを無理に我慢しないことです。月経は繰り返しやってくるものですから、自分に合った対処法を見つけられれば、生活はぐっと楽になるはず。PMSに悩んでいる方は、より充実した人生を叶えるために、ぜひできることから行動を起こしてみてください。